初めての課金が入った日、売っていた機能はもう無かった — 消した機能を17日間売り続けていた — 制作日誌 #25
制作日誌

初めての課金が入った日、売っていた機能はもう無かった — 消した機能を17日間売り続けていた — 制作日誌 #25

個人アプリに初めての有料購入が入った。登録から5分後だった。喜んだのは一瞬で、課金画面が特典として並べていたAIの2画面は、17日前に自分でファイルごと消していた。お金を受け取ったのに使えない。その日のうちに何を決め、何を直したかの記録。

KIYODO
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自作のタスク管理アプリに、初めての有料購入が入った。月額 US$2.99 のプランだ。新しく登録した方が、登録から 5分後 に買ってくれた。

個人でアプリを作っていると、最初の1件の課金は特別な意味を持つ。広告の収入が月に数十円という世界で、誰かが自分の意思でお金を払ってくれた。通知を見た瞬間は素直に嬉しかった。

その嬉しさは、課金画面を開き直したところで消えた。

売っていたものと、実際にあったもの

課金画面は有料プランの特典として、次の2つを並べていた。

  • 作りかけのタスクから、細かい手順をAIが提案してくれる画面
  • AIと会話しながらタスクを作る画面

どちらも、アプリの中にもう存在しなかった。17日前に私自身が消していたからだ。

消した理由ははっきりしている。「開いただけで勝手にAIが動くのが嫌だ」という声があり、自分でもそう感じていた。そこで入口を隠すのではなく、画面をファイルごと削除した。行数にして 936行519行。思い切りよく消したつもりだった。

ところが課金画面の文言には、一切手を付けていなかった。

お店で例えるとこうなる。メニューから料理を下げたのに、店先の看板にはその料理の写真が貼られたまま。看板を見て入ってきたお客さんが、注文した後で「それはもう作っていません」と言われる。

例え実物
厨房から消えた料理削除したAIの2画面
店先の看板課金画面の特典一覧
看板を見て入ったお客さん初めての購入者

利用者の側から見れば、詐欺と区別がつかない。返金の申し立てや低い評価に直結する状態に、購入から 約1時間 気づけなかった。

なぜ17日も食い違ったのか

原因は単純で、だからこそ厄介だった。

機能そのもの(画面のファイル)と、その機能を売る文言(課金画面の翻訳ファイル)は、まったく別の場所にある。画面を消しても、文言の側には何の警告も出ない。型の検査も通るし、アプリも普通に動く。壊れたものが何もないので、誰も気づかない。

しかも課金画面は、自分では開かない画面だ。開発者は最初から全機能が使える状態で触っているので、「買う側」の目線でこの画面を読み直す機会がない。17日間、看板は誰にも見られないまま掲げられていた。

その日に決めたこと

気づいてから寝るまでに、決めることが4つあった。どれも「どちらを選ぶか」の分岐だった。

分岐1:消したまま謝るか、戻すか

選択肢は2つあった。特典の文言を消して「ご迷惑をおかけしました」で済ませるか、機能を戻すか。

戻すことにした。お金を払ってくれた人がいる以上、売ったものを渡すのが先だと考えた。削除する直前の状態から2画面をそのまま復元し、有料の人にだけ入口を出す形にした。消した理由だった「勝手に動く」問題は、無料の人には入口自体が見えないことで避けられる。

AIの使用回数の上限は、提案が月 30回、会話が月 300回 にした。復元した後、実際に提案を動かして、小さな手順が8件と参考リンクが2件返ってくるところまで確かめている。

分岐2:入口をどこに置くか

最初は設定画面に置こうとした。そこなら画面の見た目を崩さない。

実機で押してみて、すぐにやめた。手順の提案は「今書いているタスク」を材料にする。設定画面から開くと材料が無いので、必ず失敗する。そこで入口は、タスクを作る画面の中のボタンに移した。会話の方は材料が要らないので、設定画面から単独で開けるようにした。

分岐3:誰に、どう謝るか

全員にお知らせを出す案もあった。だが、この食い違いで実害を受けたのは購入者1人だけだ。他の人に謝っても意味がないし、無料で使っている人には「有料の話」を押しつけることになる。

お詫びは 1人・1回だけ 表示する形にした。表示したかどうかの印は端末ではなくアカウントの側に持たせた。機種を変えても、同じお詫びがもう一度出ることはない。この「1人に1回だけ」を守るための自動テストを 34件 書いた。

分岐4:無料欄の説明をどうするか

戻した機能を有料限定にした瞬間、今度は課金画面の無料欄が嘘になった。無料欄には「AIが月20回まで使える」と書いてあったからだ。

1つ直すと、隣がまた食い違う。この説明は 13言語 に訳してあったので、13言語すべてからAIの記述を消した。

同じ日に、もう1つ引き金を引いた

この機に、以前から決めていた無料プランの制限も発動した。無料の人のタスクに付けた写真は 7日 で消える、というものだ。

アプリ側の削除は、アプリを開いた人にしか効かない。そこでサーバー側でも毎晩拾う二段構えにした。サーバー側には「その人が有料かどうかの一覧が取れなかった夜は、1枚も消さない」という決まりを入れてある。判定できない人を無料扱いに丸めて写真を消すのが、一番取り返しがつかないからだ。

ただ、ここには反省が残っている。事前の告知を出さずに発動してしまった。今回の件で「売っているものと実物を揃える」ことを学んだその日に、「予告と実物を揃える」ことを飛ばしていた。次に無料側を狭めるときは、必ず先に知らせる。

手順書に足した「対」の一覧

今回の件を一般化すると、「片方だけ直すと、静かに食い違う対」がある、ということになる。見つけた分を手順書に書き出した。

片方もう片方今回どうなったか
機能の画面課金画面の特典一覧17日間、消えた機能を売った
有料限定にする設定無料欄の説明無料でも使えると嘘が残った
サーバーの回数上限課金画面に書く回数今回は揃えた(両方を同時に変える)
無料側の制限利用者への予告予告なしで発動した

機能を消す、入口を隠す、有料限定にする。そのどれをやる時も、同じ作業の中で課金画面・ストアの説明文・初回の案内・ヘルプを全部読み直す。逆に、売り文句を足した時は、その機能に実際に指でたどり着けるかを一度押して確かめる。

「画面は消していない、入口を隠しただけ」も言い訳にならない。利用者が押せないなら、それは存在しないのと同じだ。

1件目の課金が教えてくれたこと

最初の購入者は、たぶんこのアプリの一番新しい利用者だった。登録から5分で、課金画面の説明だけを信じてお金を払ってくれた。

その5分の間に読まれたのは、私が17日間一度も読み直さなかった画面だった。作る側がいちばん見ない場所を、買う側はいちばんよく見ている。

AIの特典は、将来は別の特典に置き換える予定だ。そのときは全員に同じ予告を出してから消す。今度は、看板を下ろすのが先だ。

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