個人アプリの広告収入は月40円だった — 制作日誌 #10
自作iOSアプリに広告を入れて3か月。管理画面の数字を読んで「月2,100円」だと思っていた。通貨の単位を取り違えていただけで、本当の額は月40円。1表示あたり0.024円という実額と、そこから何を考え直したかの記録。
自作のiOSアプリ2本に広告を入れている。有料プランに入らない人にも使ってもらうかわりに、広告で原価をまかなう、というよくある作りだ。
3か月ぶんの数字が溜まったので、広告の管理画面のレポートAPI(人が画面を見るかわりに、プログラムから数字を取り出せる窓口)を直接叩いて集計した。出てきた表がこれだった。
| アプリ | 広告の要求 | 実際に表示 | クリック | 充填率 | 収益 |
|---|---|---|---|---|---|
| メインのタスクアプリ | 2,368 | 1,266 | 3 | 87.3% | 42.19 |
| 経路アプリ | 336 | 0 | 0 | 0.0% | 0 |
| カレンダー | 84 | 0 | 0 | 0.0% | 0 |
このとき私は「42.19ドル ≒ 6,300円、90日ぶんだから月2,100円」と読んだ。個人アプリの広告としては上出来だと思ったし、そのつもりで値付けの検討まで始めていた。
4日後に気づいた150倍の読み違い
集計スクリプトが金額の頭に $ を付けて出力していた。それを書いたのは私自身で、単位を確認せずに決め打ちしていた。
改めてアカウント設定を開くと、通貨は日本円だった。APIの返事のヘッダーにも {"currencyCode": "JPY"} と書いてある。最初から書いてあったのに、自分が付けたドル記号のほうを信じていた。
| そう思っていた額 | 実際 | |
|---|---|---|
| 90日の収益 | 42.19ドル(約6,300円) | 42.19円 |
| 月あたり | 2,100円 | 約14円 |
| 直近30日(別途実測) | — | タスクアプリ 40.62円 / 経路アプリ 1.52円 |
| 1表示あたり | 約5円 | 約0.024円 |
150倍の読み違いだった。桁ではなく単位を間違えると、こういう間違え方をする。
1表示あたり0.024円という数字を、広告の世界でよく使う「1,000表示あたりの収益」に直すと23.5円になる。個人開発のアプリとしては、極端に低いわけでもない。ただ、絶対額が小さすぎるだけだ。
この数字で崩れたもの
数字を直した結果、それまでの前提が2つ崩れた。
1つめ。「広告を見てもらって無料枠をまかなう」が成立しない。 経路アプリは、1回の検索で経路計算の外部サービスを叩く。原価は1検索あたり5〜15円かかる。対して広告は1表示0.024円。1回の検索の原価を広告でまかなうには、200〜600回の広告表示が要る。1人が1日に何百回も広告を見ることはないので、この式は最初から釣り合わない。
2つめ。「広告をたくさん置けば収入が増える」も成立しない。 仮に表示回数を今の3倍にしても、月40円が月120円になるだけだ。そのために画面を広告だらけにすれば、使う人は離れる。得られるものと失うものが釣り合わない。
広告のせいではなく、母数の問題
誤解のないように書いておくと、これは広告サービスが悪いという話ではない。単価は相場の範囲だ。効いているのは母数のほうで、実際に使っている人が2桁の前半しかいない。
- 使う人が少ない → 表示回数が少ない → 収益が小さい
- クリックは3か月で3回。つまり収益の大半が「表示されただけ」の積み上げ
クリックが3回ということは、そのうち1回が偶発的に増減するだけで、月の収益が何割も動く。母数が小さいと、平均値そのものが信用できなくなる。実額を出して初めてこれが見えた。
置き場所は自分で選べても、中身は選べない
実額が分かる前、収益を上げようとして広告の置き場所を組み直したことがある。
- タスクアプリ … 日ごとの一覧、カテゴリ作成、そして作成画面に大きめの枠(横300×縦250)。作成画面はそれまで広告ゼロだった
- 経路アプリ … 保存一覧の下に大きめの枠。検索画面は結果が出ているときだけ上端に細い帯。結果の画面は情報量が命なので、常時大きい枠は置かない
ここで一つ、始める前に知らなかったことがある。「静止画の広告だけ出す」「動画は出さない」といった指定は、アプリ側からはできない。 何を出すかは配信側が決める。だからアプリ作者にできるのは「枠の大きさと場所を決めること」だけで、体験の質は半分くらい運になる。
置き場所を増やしたぶん表示回数は増えたが、実額が0.024円である以上、増えたのは0.024円の積み上げでしかなかった。置き場所の工夫は、単価の低さを埋められない。
無料枠の設計をどう変えたか
経路アプリは「広告を見て貯めた分だけ、本物の経路を引ける」という作りにしていた。実額を知った後、この考え方そのものを見直した。
| 前提 | ゲスト1人1日の広告収入 | 1日3回検索したときの原価 |
|---|---|---|
| 当時の経路アプリ(表示0) | 0円 | 15〜45円 |
| 相場どおり配信された場合 | 0.4〜1.6円 | 15〜45円 |
| タスクアプリの実測どおりなら | 10〜20円 | 15〜45円 |
どの行でも赤字である。つまり「広告で原価をまかなう」路線は、単価を何倍かに改善しても届かない。ここで採った方針は次の2つだった。
- 原価そのものを下げる。 有料の外部サービスを、無料で同等のことができる仕組みへ置き換える(別の日誌に書いた)
- 無料の上限は、広告収入ではなく「許容できる持ち出し」で決める。 収支が合う回数ではなく、赤字でも払える範囲を先に決めて、そこから逆算する
2つめは負けを認める決め方に見えるが、実際は逆で、合わない式を合わせようとして無理な制限を掛けるほうが、使う人を失う。
確認しておくとよかったこと
同じことをこれから始める人が、最初の1日でやっておくと数か月ぶんの誤解を防げることを挙げておく。
- 通貨と単位を管理画面で確認する。 レポートの返事に通貨コードが入っているので、それを表示に使う(決め打ちしない)
- 1表示あたりの実額を最初に出す。 率(充填率・クリック率)より先に、金額を1件あたりに割る
- クリック数を確認する。 ひと桁なら、その月の収益は運の要素が大きいと自覚しておく
- 収益を前提にした設計をする前に、1か月ぶんの実額を待つ。 私は待たずに値付けの検討を始めて、やり直しになった
学んだこと
- 自分が書いたスクリプトの出力ほど疑わない。 単位・通貨・桁は、外部の一次情報(設定画面やAPIの返事そのもの)で必ず裏を取る
- 収益の話は率ではなく実額で見る。 「充填率87%」は健全そうに見えるが、実額を出すまで「87%で月40円」だとは気づけなかった
- 設計の前提に金額を置くなら、その金額は実測で入れる。 見積りで置いた数字は、いつのまにか事実として扱われる
このあと、広告以外の収益(有料プラン)が3か月近く1件も成立していないことも分かった。そちらの話はまた別の日誌で書く。
Comments (0)
No comments yet. Be the first to leave one.